柿沼康二 書の世界−文字の超越
「聖」 (縦70cm×横70cm)
「好きなものは咒(のろ)うか殺すか争うかしなければならないのよ」。坂口安吾の晩年の御伽噺「夜長姫と耳男」の最後に出てくる夜長姫の言葉だ。これまでモラルを超越し、不合理とも過剰とも言える情熱を余すことなく芸術に注いできた。何かを咒い争うかのように怒りを込めて筆を執ってきた。夜長姫の言葉を知って、それは「殺す」ということだったのかと確信した。体の中から出ざるをえない何者かと向き合い、死をも恐れず吐き出し続ける。その時の自分自身、自分の核とも言える「ふるさと」を探し求めると同時に叩き潰す。自分を殺し続け、新たに生まれ変わろうとする飽くなき自分への挑戦。これから書を、芸術を殺す覚悟でかからないと自分の求める本当のアートは見つからないだろう。
「生きよ堕ちよ」と叫ぶ安吾が今俺の中にいる。