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author : スポンサードリンク| 2017.02.03 Friday | - | -
「開」(Fole2008年10月号)
柿沼康二 書の世界−文字の超越
「開」 (縦105cm×横90cm)




ちょうど1年前、旧作でも新作でも良いという条件でこの「Fole」表紙に年間の作品提供企画を受けたが、私は全て新作で臨む事を宣言した。毎月欠かさず半端の無い新作を創り出すことは、予想はしていたがやはり並大抵の精神では続かない。そして自らの更なる沸点を目指し、呼吸、運動、存在感、個性、統一感、素材感、伝統性、現代性…とチェックボックスの数は日に日に増えるばかりだ。相変わらず不器用な道、困難の多い方の選択肢を選んでしまう自分、そして「無駄は無駄じゃない」という信念を掲げ始めた10年前と変わらず、汗かきベソかき奔走しながら筆を執る今の自分を強く感じる。メシを食うように無駄を食い、さあ、これから私は何をこじ開けようとしているのだろうか。
author : kakiwebmaster| 2008.10.29 Wednesday 20:19 | - | trackbacks(0)
「アキレスと亀」秘話(3)
●騙し絵事件

K氏から連絡が入った。

「申し訳ありません!メイン題字の件なのですが、三番目の作品が選ばれました。監督がこれ!って、、、」

私は「えっ!えっ!えっ!えっ!、、、、、、、、、、、、」

そうゆう事も想定してなかったわけではなかったのだが「何で!何で!」「びっくりしたー」「びっくりしたー」「びっくりしたー」・・・と、この日ほど自分の良しとする作品と他者の良しとする作品のギャップに「びっくりしたー」ことはなかった。
先日の日活撮影所の撮影において、私を含めた柿沼サイドとオフィス北野のスタッフ(監督を除く)の誰もが「どう考えても、1、2番目の大作のどちらかでしょう。3番目の小さい作品は有り得ない」という共通の理解があったからである。

放心から覚め、事の次第、オファー時の最初のやりとりを思い返した。

「色かもしれない。そこに何か謎があるに違いない」

そう思い、監督が指定していた色を画像処理して私の文字に載せてみた。


「Oh! My God!!!!」
「やべ〜やべ〜〜やべ〜〜〜!」、、、


「監督だけがわかってたんだ」
「俺、“俯瞰“って意味を取り間違えていたか、誤解して使ってたかもしれない」
「誰も監督に追いつけなかったってことじゃねーか」

どう考えても3番目の作品がずば抜けて良かった。そう、「色」を載せた瞬間、1,2番目の作品には生命力は消され、色を載せた瞬間、3番目の作品は生き生きとギラギラと私を睨み付けていた。絵描きでもある監督は、私の白黒の書作品に架空のカラーフィルターを載せて見ていたしか思えない。

私の辞書に新たな語録が追加された。

「書は一色で成立する芸術。しかし、その一色で良い作品が、一色の芸術の中では最高だったとしても、どんな場合においても絶対的に良い結果につながるというわけではない。」

放心。その日は終日とても筆を持つような気分ではなくなった。


K氏にお礼を伝えた。「あの時、『何があろうと3種類作って下さい!』と言われなければ恥をかくところでした。救われました。ありがとうございます!」

心の底から監督に畏怖の念を抱いた。


題字候補作3点のうち大作2作品の前で




●最後の詰め

結果、おおよそのところのエンドロールを約3日間で揮毫、その後、微調整や追加作業を地味にこなし、毎晩9時の宅配便で送り出す日々が続いた。
約300名強の文字の書き振りを貫通させるのは困難を極めたが、現代映画に希少とされるエンドロール全筆文字、合理社会に逆行しようとする北野組の意図は確実に私には響いていた。
完全に柿沼康二はアーティストということを忘れ、監督の筆耕または「アキレスと亀」映画スタッフの一員になっていた気がした。監督も映画スタッフも、柿沼を飼いならすに足りる過剰な情熱を持ちあわせていたから、、、。

体重3キロ減。ゼロ号試写の後にも訂正が入り、夜9時の宅配便に最後の一枚の名前を乗せた。

翌朝、初号試写を見に行った。

監督に深々と頭を下げた。

この試写で映画「アキレスと亀」は完成、以後誰も手を加えられない。

この世にまた一つの芸術作品が誕生した。


「アキレス関係だけで個展やれるよなー。やらんけど、、、。さあ次だよ次!」

日の落ちる前に蕎麦屋で飲むビールが空っぽの胃袋に勢い良く流れこんだ。

author : kakiwebmaster| 2008.10.03 Friday 15:54 | - | trackbacks(0)
柿沼康二
書家、アーティスト
Koji Kakinuma (c)Douglas Benedict
(c)Douglas Benedict
書家/アーティスト・柿沼康二の芸術観、書道について、アーティスト論、過去の日記などを集めたエッセー集。

柿沼康二(カキヌマコウジ)。書家・書道家・現代美術家。 1970年栃木県矢板市生まれ。5歳より筆を持ち、柿沼翠流(父)、手島右卿(昭和の三筆)、上松一條に師事。東京学芸大学教育学部芸術科(書道)卒業。2006-2007年、米国プリンストン大学客員書家を務める。 「書はアートたるか、己はアーティストたるか」の命題に挑戦し続け、伝統的な書の技術と前衛的な精神による独自のスタイルは、「書を現代アートまで昇華させた」と国内外で高い評価を得る。2013年、現代美術館において存命書家史上初の快挙となる個展を金沢21世紀美術館にて開催。2012年春の東久邇宮文化褒賞、第1回矢板市市民栄誉賞、第4回手島右卿賞。独立書展特選、独立書人団50周年記念賞(大作賞)、毎日書道展毎日賞(2回)等受賞歴多数。NHK大河ドラマ「風林火山」(2007)、北野武監督映画「アキレスと亀」、角川映画「最後の忠臣蔵」等の題字の他、「九州大学」「九州大学病院」名盤用作品等を揮毫。 NHK「トップランナー」「趣味Do楽 柿沼康二 オレ流 書の冒険」「ようこそ先輩課外授業」「スタジオパークからこんにちは(2回)、MBS「情熱大陸」、日テレ「心ゆさぶれ! 先輩ROCK YOU」、BOSE社TV-CM等に出演。 伝統書から特大筆によるダイナミックな超大作、トランスワークと称される新表現まで、そのパフォーマンス性は幅広く、これまでNYメトロポリタン美術館、ワシントンDCケネディセンター、フィラデルフィア美術館、ロンドン・カウンティーホール、KODO(鼓童)アースセレブレーションなど世界各地で披露され好評を博す。現在、柿沼事務所代表取締役社長兼所属書家。


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