柿沼康二 書の世界−文字の超越
雷神 (縦136×横139cm)
スタジオに金粉や顔料が飛び散るためか、何日も咳込み、体調を崩した。何度も諦めようとしたが、その自分の弱さと無力感を打ち砕かんまでは、雷様は私の書線に雷を鳴らしてくれることはない。自分の力以上の何かが光臨してくるまで書き続けた。もはや創るという目的さえなくなっていた。人間から動物に戻るような感覚。上手下手、読める読めない、書かアートかということじゃない。自分にとって新しいか、昨日の自分より如何に前へ進むか、己の絶対的な個性は何か、それが、アーティストの核だ。
ついにスタジオに雷鳴が轟いた。
風神と雷神。またしても絶対に他人に譲りたくない、譲らない作品を作ってしまった。私は究極の無駄人間である。