“Eternal Now”
「一」は、始まり
「一」 は、究極
「一」 は、シンプル
「一」 は、全て
(BOSE社TV‐CMナレーションより)
「一」
何と美しく、力強く、意味深い文字であろう。
だからこそ、「一」を作品にすることは書の世界で最も難しいと言われ続けてきた。
書は、一回性の芸術である。決してやり直しがきかない究極の刹那の中、筆を使い、墨一色、たった一人で文字を有機的に美しく描き出す芸術である。
3500年とも言われる書の歴史、その時の試練にさらされ、耐え抜き、伝承されてきた書の規範性や美観を徹底的に身体に染み込ませた上での文字表現でなければそれを「書」とは呼べない。単なる文字と「書」とは違うからだ。
縦2.8m×横5.2mという今回の超大作「一」、これ程大きな作品を創るだけでも常識外れな上、音響機器のパイオニアとして世界の頂点に君臨し続けるボーズ社の肖像、“新たなる音の革命”と題された新製品「1.1チャンネル ホームシアター」の画期的性能とフォルムのイメージを表現しなければならない。さらに、現場は撮影スタジオというアウェー戦、ホームとは遥かに異なる現場においてパフォーマンス性と作品自体の完成度を求められるという多重苦、大きな壁が幾重にも私の前に立ちはだかった。
20110820、時が来た。
“切ったら血の出るような線”
“上品なアヴァンギャルド”
柿沼スタイルの核を一本の線に凝縮させるべく雄叫びをあげながら巨大な筆と漆黒の墨をキャンバス目掛け全身全霊で打ち込んだ。
“Eternal Now”
永遠の今がそこにあった。
書家/アーティスト 柿沼康二
www.kojikakinuma.com
パフォーマンス作品「風林火山」
ボーズ社CMにおいて、柿沼は超大作「一」以外に様々な書のパフォーマンスを披露している。
柿沼はCM制作チームの一員として企画段階から大きく関わり、多種多彩、無限にある書の表現とパフォーマンスを「風」「林」「火」「山」4つのテーマで表現することによって全体をコーディネートすることを提案(NHK大河ドラマ題字「風林火山」は自らの代表作)した。朝9時から始まった撮影は刻々と熱を帯び、いつしか日付が変わり、終了は深夜3時を回っていた。総制作数は50点を超え、その中の一部が展示される運びとなった。
下記、柿沼スタイル「風」「林」「火」「山」の構想上のイメージを紹介する。
風・・「其疾如風・其の疾きこと風の如し」・・新しさ、斬新さ、発想、切れ、など
林・・「其徐如林・其の徐(しず)かなること林の如し」・・静寂感、洗練、品格、など
火・・「侵掠如火・侵し掠めること火の如し」・・ダイナミズム、情熱、怒り、など
山・・「不動如山・動かざること山の如し」・・絶対感、存在感、核、永遠、普遍性、など
企画当初、作品展示の予定はなく、CM撮影用のみの目的でパフォーマンスされたが、CM作成のプロセスを紹介したいというボーズ社の意見に賛同し落款印を入れ今回の展示となった。
(銀座展)
「風」のテーマ
風から林、静から動、無から有へ
すっとした爽やかさ、物事の導入
向かって来るジェット音
「林」のテーマ
静けさ
無駄のない書における規範性